灯を継ぐ丘

── 誰かのための朝 ──

夜と朝のあいだ。
まだ冷たい気配の残る丘に、私はひとり立っている。

眼下には、誰が最初に踏みしめたのか分からない細い道が伸びている。
踏まれて固くなった土、削れた石、
誰かが直したのだろう、小さな段差。
そのすべてが、名も知らぬ誰かの痕跡だった。

その道の先を、ひとつの灯が進んでいく。
揺れながら、かすかに前方を照らしながら。

それを「最初の灯」だと思いかけて、すぐに思い直す。

灯はいつだって、
誰かが誰かに手渡してきたものだから。


── 歩み ──

大地を揺らす足音に耳を澄ませながら、私は思う。
いま進むその一歩も、無数の足跡の延長線上にあることを。

誰かがここを踏みしめ、
誰かが迷い、
誰かが戻り、
誰かが諦めずに進んだ。

その繋がりがあるからこそ、灯は今ここに揺れている。
誰も意識しないうちに、継承はもう始まっている。
いま灯を掲げているのはこの人だが、
灯の根はもっと深いところにあるのだ。

時おり、灯がふっと弱まる。
風か、疲労か、迷いのせいかは分からない。

そのたびに私は、丘の上の古い石積みへと視線を向ける。
この石積みもまた、過去の誰かが残した「痕跡」だ。
名前も顔も知らないが、この丘に灯を掲げた先人がいた証。
私はその横に、小さく灯を置く。

受け継いだ灯。
そして、いつか誰かへ渡す灯。

私はただ、道を歩くその人の灯が消えないよう、
静かに見守り続ける。

迷いながら進む足こそ、未来をつくる足だ。


―― 行きなさい ――

歩む人がふと立ち止まった。
俯き、肩が沈み、灯が弱まる。

私は息をのむ。
けれど、声を張り上げたりはしない。
この道の作法にのっとり、そっと呟く。

── 行きなさい。

私の声は届かなくてもいい。
この人が再び歩むとき、
この丘のどこかに残る痕跡が、
この言葉を運ぶだろう。

灯は、もうその胸の奥に灯っている。
たとえ消えそうに見えるときでも、
心の奥で埋み火のように燃えているのだ。

東がわずかに朱に染まり、鳥の声が夜を押し出す。

旅人は、再び歩き始めた。

揺れる灯に照らされながら進む姿を見て、私は気づく。

私は見守る側であり、かつては歩く側でもあった。
迷い、揺れ、灯を受け取り、また誰かへ手渡してきた。

いつかまた私もこの丘を離れ、あの道を歩き出すだろう。
そのとき私の中には、いま歩む誰かの灯が宿っている。

そして私の灯もまた、誰かの朝を照らすだろう。

誰かの灯が、
あなたの道を照らしている。
あなたの灯は、
誰かの道を照らしていく。



ここに灯した言葉を読んで、
もう少し火にあたっていこうと思われたら、こちらへ…

▶︎ 灯のそばで、ひと休みする

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