── 歩き続けるあなたへ ──
気づいたときには、僕は砂の世界で
自分がどこに向かっているのか分からなくなっていた。
空も地面も、音さえも、どこまでも同じ色だった。
歩いても歩いても景色は変わらず、足跡さえ風に消されていった。
まるで、この世界に僕がいた証まで、静かに薄れていくようだった。
砂の上に取り残された僕の影だけが、
この世界に僕がいることを、かすかな声で告げていた。
── 遠くに見えた光 ──
そんなときだった。
果てしない砂の向こうに、何かが見えた気がした。
目を凝らしても、形もはっきりとは分からない。
けれど、全て同じ色の世界の中で、
そこだけが確かに違う色をしていた。
終わりのない歩みの先に、初めて現れた変化だった。
僕は思わず足を速めた。
砂が崩れ、靴の中に熱が入り込む。
息が上がるたびに、喉が焼けるように乾く。
それでも、もしあの光が水のきらめきなら ──
だが必死に歩き続けても、その色彩は一向に近づいてこない。
まるで、僕が進む速度に合わせて、
世界の方が静かに後ずさりしているようだった。
それでも、もう少しで届く気がして、
歩く速度を緩められなかった。
汗が目に入り、視界が滲んでも、
その「違う色」だけは、ずっと僕の瞳の中で光っていた。
遠くに光を見たとき、
たとえそれが幻でも、人は歩かずにはいられない。
その一歩にこそ、心がまだ生きている証がある。
── 幻の中の真実 ──
「あんな場所に何かがあるはずがない」
僕の中の誰かが囁く。
それでも、遠く見える輝きから目を逸らせなかった。
「確かに見えるんだ」
そう信じることでしか、僕は歩けなかった。
信じることが、僕の足を前に動かす最後の力だった。
だけどその光は、いつまでも彼方で輝き、
風が吹くたびに形を変え、輪郭をぼやかしていった。
それでも目を凝らしていると、不思議なことに気づいた。
揺らめく光の中に、僕の歩いた道が映っていたのだ。
消えたと思っていた足跡が、そこに確かに続いていた。
それが幻でも、僕が歩いた時間は本物だった。
風が消した足跡は、確かに僕の中に残っている。
見上げた空は、さっきよりも少しだけ青かった。
風がまた頬を撫でる。
僕はその風の向かう方へ、もう一度歩き出した。
たとえ幻だったとしても、
そこへ向かって歩いた時間は、たしかにあなたのものだ。
その足跡が、これからのあなたを支えてくれる。
あなたの知らないところで
砂漠を歩いた時間は、確かにあなたのものだった。
けれど、その足跡は、
本当にあなたの中だけに残っているのだろうか。
気づかないうちに、
誰かがその跡を踏み、
誰かの夜を、わずかに照らしていたとしたら ──
第三の寓話
ここに灯した言葉を読んで、
もう少し火にあたっていこうと思われたら、こちらへ…
▶︎ 灯のそばで、ひと休みする

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